ウェルスナビの投資機会集合を描いてみた

ウェルスナビのポートフォリオ配分比率は、ユーザーが選択したリスク許容度に応じて下図のようになっています。この比率は、ノーベル賞を受賞したハリー・マーコビッツ氏が礎を築いた現代ポートフォリオ理論に基づいて、「リスクが同じなら期待リターンが最も高く」なるように決められていると説明されています。

この記事では、その背景を少しだけ探っていきたいと思います。

 

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ウェルスナビ ホワイトペーパーから引用

 

投資機会集合とは?

長期投資を前提に複数銘柄を保有して資産運用するときに、これら保有銘柄の配分比率、すなわちポートフォリオの配分比率をどのように決定すべきかが問題になります。この問題に取り組むときによく用いられる方法は、下図のように横軸にリスクの大きさ、縦軸に期待リターンの大きさをとって、このグラフ上に考えうるポートフォリオをプロットしていく方法です。各点がひとつのポートフォリオ、あるいは投資機会と呼ばれるものですので、これらの点の集合を投資機会集合と呼んでいます。

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具体例を見てみましょう。例えば米国株(ウェルスナビではVTI)と米国債券(同AGG)の2つのETFを用いてポートフォリオを組むとします。それぞれの期待リターンとリスクは、ウェルスナビのホワイトペーパーから引用することにしましょう。米国株の期待リターンは7.2%、リスクは12.9%と評価されています。また米国債券の期待リターンは2.6%、リスクは2.9%でした。米国株だけを保有する場合は上図の青の点として、米国債券だけを保有する場合は上図の緑の点としてプロットされます。

 次にこれら2銘柄の配分比率を10%刻みで変化させた場合の投資機会もプロットしていきます。上図の通り、青と緑が直線で結ばれるわけではないのです。そして注目すべきは図の赤色の点です。米国債券90%に米国株10%を混ぜたポートフォリオで、米国債券だけで運用した場合に比べて、リスクは小さく、期待リターンは大きくなっています。リスク最小で運用したい場合であっても、10%程度は株式を織り交ぜて運用したほうがリスクヘッジできるということです。

 

ウェルスナビの投資機会集合

 それでは上記で説明した投資機会集合を、ウェルスナビが採用している7つの資産クラスに対して見てみましょう。同様に、基礎データはウェルスナビのホワイトペーパーから引用します。*1

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 図中、濃い青色の点は各資産クラス単体でのリスクおよび期待リターンに対応する点です。薄い青色は小さな点で描いていますが、各クラスを5%刻みで変化させた場合の投資機会(ポートフォリオ)を表します。その多くが重なっているためほとんど面に見えますが、実は23万点以上あります。そして赤の点は、ウェルスナビが採用しているポートフォリオで、リスク許容度に応じて5つが用意されています。

この図からまず確認できることは、赤色の点が投資機会集合の中でも上側に張り付いて見えることです。言い換えると、冒頭でご紹介した「リスクが同じなら期待リターンは最も高いものがいい」がきちんと実現できているということです。このような投資機会集合の上側の辺を「効率的フロンティア」と呼んだりもします。

リスク許容度が低い点がこの効率的フロンティアに若干届いていないように見える理由は、ウェルスナビが各資産クラスの保有比率に上限(35%)と下限(5%)を設定しているからです。

さて他に気が付く点として、リスク許容度6とか7といった、より高いリスクのポートフォリオも設定できるのではないか?という点でしょうか。計算上は、例えば米国株の比率を15%まで下げ、日欧株と新興国株をそれぞれ35%まで引き上げることで、より高い期待リターンを実現するポートフォリオも組むことができます(リスクも上がります)。また、保有比率の上下限を撤廃すれば、例えば米国株、日欧株、新興国株を均等に持つことでも同じようなポートフォリオが作れます。しかしこれはちょっと行き過ぎていて、長期投資にはあまり向いていないと私は思います。気になった方は、次項も続けて読んでみてください。

 

 実務的な課題

 ここまでのお話は比較的簡単でした。統計学の知識は必要ですが、それとて専門書を読めば誰にでも正しい答えを導くことができます。問題は、計算の基礎として使った期待リターンとリスクをどのように決めるのか、という点です。

さて、期待リターンとはどのようなものでしょうか。長期投資を前提にするならば、例えば株価指数チャート上で短期的な変動を思い切って無視して、右肩上がりの直線を一本引いたものなどをイメージすればよいでしょう。これを長期トレンドということもあります。この長期トレンドの傾きを期待リターン、長期トレンドから上下に行ったり来たりする部分をリスクと考えます。

過去のリターンを求めることは簡単です。過去の株価指数チャート上に線を引けばよいからです。問題はこの長期トレンドがこれからも継続するのかどうか、でしょう。前項で議論した「より期待リターン(とリスク)が高いポートフォリオ」では、新興国株の保有比率を高くせざるを得ません。ウェルスナビでは、新興国のうち約半数は中国と台湾です(他にはインド、ブラジル、ロシアなど)。世の中には、「中国の成長は減速するもまだまだ持続し、やがては米国を追い抜く」などという意見もありますが、本当でしょうか?そうかもしれないし、そうでないかもしれない。前項で新興国株の期待リターンとして仮定した数値を全面的に信頼するならば、その保有比率を高めることをしてみてもよいでしょう。ただし、相応の賭けにはなります。過去2年間に限っては、それほど期待通りのリターンは得られませんでした。

このように、現代ポートフォリオ理論にも限界があります。ウェルスナビは約1年ごとに基礎データを更新し、ポートフォリオの見直しをしてくれます。ウェルスナビがデータを無料で公開してくれているのに、私自身が自分で運用をせずウェルスナビのサービスを利用している理由のひとつには、このような理由があるからです。このあたりは、投資家の皆さんのより広義な意味での「リスク許容度」が試されているのかもしれませんね。

最後に、投資の世界では当たり前のことではありますが、念のため注意事項を引用しておきます。

 

本資料を参考にした投資行動が将来の利益あるいは損失の回避を保証・示唆するものではありません。また、提供された情報等に起因して、お客様が損失を被った場合でも、WealthNavi は一切の責任を負いません。

(ウェルスナビ ホワイトペーパーの注意事項より)

 

*1:↓ページ下部にpdfファイルへのリンクがあります。
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