ウェルスナビの将来予想シミュレーションを探る(その2)

前回の記事「ウェルスナビの将来予測シミュレーションを探る(その1)」では、ウェルスナビが提供してくれる将来予測(下図に示すようなグラフ)に関する、ロジックとデータの検証、およびその実現可能性評価を、積立がない場合に対して行いました。

今回の「その2」では、積立を設定した場合に対して、同じような評価検証を行いたいと思います。

下図の例は、「リスク許容度5」に設定し、当初100万円で資産運用を開始し、毎月1万円を積み立てながら30年間運用した場合の予測です。ウェルスナビの計算によると、50%の確率で1,288万円以上、70%の確率でも939万円以上になるという結果でした。投資元本が460万円なので、倍以上になるという計算結果です。これはやるしかない!なんて思ってしまいますね。

本記事ではこの「将来予測シミュレーション」について評価検証します。ただ、この作業は思いのほか難しいものになりました。確定論的な検証では結果がうまく合わなかったので、確率論的な検証を行いました。なんとか結論みたいなものに達したかなと思いますが、知識不足を実感しています…

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将来予測結果(積立2パターン)

はじめに、ウェルスナビの無料診断機能を使って将来予測を実行してみました。

まず毎月1万円積立の場合、さきほどのグラフに示した通り、50%の確率で1,288万円以上になるという結果でした。30%、70%のそれぞれについても計算結果が表示されています。

次に、毎月10万円を積み立てた場合についても実行したところ、50%の確率で8,915万円以上、70%の確率で6,704万円以上になるという結果でした。

ウェルスナビが示してくれたこれらの結果を下表にまとめておきます(「W将来予測」の列がその結果です)。

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検証方法1(積立個別独立計算)

前回の記事では、価格変動モデルに幾何的ブラウン運動を適用し、そのパラメータを推定することで、ウェルスナビの計算と同じ結論が導けることを示しました。その結果として、計算ロジックと計算に用いた基礎データがどのようなものであるかを明らかにしました。推定されたパラメータは、月次の期待リターンであるµが6%、標準偏差であるσが14.9%あたりである、という結論でした。

積立を設定した場合でも、この数値自体は変わらないはずですので、そのままの値を使用します。

ところで、積立がある場合は幾何的ブラウン運動を元にどのような計算をしていけばよいのでしょうか。実は、その具体的な方法を私は調べきることができませんでした。そこで、おそらくこれは正しくない仮説ですが、以下の表のような計算を適用して結果を見てみることにしました(ここで示したのは確率50%の場合の計算です)。

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最初の100万円はそのまま30年間運用されると考えます。前回の計算によると、この100万円は30年後に433万円になるというものでした。

運用開始1か月がたつと、1万円が積み立てられます。今度はこの1万円が29年11か月に渡って前の100万円とはまったく独立して運用されると考えます。

これをずっと繰り返し、30年後に最後の1万円が積み立てられて終了するという考え方です。30年間での最終的な収益は、これらの和とします。

上記の計算は、積み立てられたそれぞれの1万円が、他の1万円と確率的に全く独立しているという点で正しくないような気がしています。仮に毎月購入する資産クラスが異なっていて、それぞれの相関係数が0ならばこの計算方法は正しいと思います。しかし今回は全く同じ資産クラスを買い続けていくので、期間ごとに独立に計算して単純に和をとればよいわけではないはずです。

しかし、積立を行いながら期間収益を計算するときの正しい方法がわかりませんでしたので、とりあえず上記の方法で計算し、ウェルスナビと答え合わせをしてみることにします(ウェルスナビが正しい、という意味ではありませんが)。

計算結果は以下の通りです。

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「W将来予測」列はウェルスナビが計算した将来予測シミュレーションの結果で、前項に示した結果の再掲です。

「検証1」列に、本項でその考え方を示した計算結果を示しています。

結構ずれがありますね。特に毎月10万円積み立てた場合、50%の場合で300万円以上、70%の場合では500万円近くのずれがあります。

ちょっと悩ましい結果となりました。私が採用した計算方法がそもそも怪しかったのですが、かといって正しい計算方法もわかりません。月次の期待リターンµ=6%、標準偏差σ=14.9%の値を変えて調整すれば両者を一致させることはできると思いますが、それをやってしまうとウェルスナビの将来予測シミュレーションがどのようなロジックとデータに基づいて計算されているのかを検証するという目的が果たせません。

行き詰ってしまったので、やり方を変えます。

検証方法2(モンテカルロ法

ウェルスナビの将来予測シミュレーションが「毎月の収益率が正規分布することを前提に計算」されていることは間違いありません(そう書かれています)。そして、積立がない場合に推定した月次の期待リターンµ=6%、標準偏差σ=14.9%の数値はこのまま使えると考えるべきだと思います。

それならば、毎月の収益率を乱数を用いて作り出し、積立を考慮しながら30年分の計算を続けてみれば、少なくとも確率的にはウェルスナビと同じ仮定に基づいた計算になっているはずです。この30年分の計算を何回も行って平均をとれば期待値が求まります。

この方法ならばやってみる価値はあるでしょう!早速プログラムを組んで計算してみました。そのやり方は次回「その3」で説明することにして、今回は結果だけ確認することにします。

ちなみに、乱数を用いた試行を繰り返すことにより近似解を求める手法のことを、モンテカルロ法といいます。

計算結果は以下の通りです。

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「W将来予測」と「検証1」の列は、前項までの計算結果の再掲です。

「検証2」列が、モンテカルロ法による計算結果です。今回は1万回試行した時の期待値として示しています。

どうでしょう?だいぶウェルスナビの将来予測シミュレーションの値に近くなりました。確率的に求めているので、厳密に一致することはありません。このくらいは計算の誤差のうちだと思います。

今回はこの結果をもって、ウェルスナビの将来予測シミュレーションのロジックとデータは正しいと判断することにします。つまり積立を設定した場合であっても、以下の結論が成り立つことが確認できたと言えます。

  • 月次の期待リターンµ=6%、標準偏差σ=14.9%を前提としている
  • この値はウェルスナビのホワイトペーパーに記載されている基礎データに基づいている
  • この値が現実的に妥当であることは、私の25か月間の運用実績と矛盾しない
  • 前項で説明した「検証1」の方法には何らかの見直すべき点が含まれている

これらをさらにまとめると、以下の通りです。

結論:積立がある場合でも、ウェルスナビの将来予測シミュレーションはウェルスナビのホワイトペーパーに書かれているデータに従っており、直近25か月の運用実績からも、実現可能性があると判断してよい。

 

(前回の記事はこちら)

curvex.hatenablog.com