ウェルスナビの投資理論は暴落相場に耐えられるのか(補足)

わずか1か月で株価が20%以上も下落するような暴落相場は、ウェルスナビが採用している正規分布の理論ではほとんど想定できません。つまり、理論上は起こりえないとして取り扱われます。

しかし前の記事で示したように、仮にこういった暴落相場をやや強引に理論に組み込んだとしても、30年といった長期で見れば、最終的な運用成果に影響を与えることはありませんでした。今回のような理論上起こりえないような暴落相場に遭遇しても、運用をやめることなく相場に居続ければ、結果的に高い確率で運用益を得られるということです。

前回記事では、「50%の確率で達成できる資産額」についてのみ上記のことを確かめましたが、今回は、他の確率においても同様のことが言えるかどうかを調べてみたいと思います。

curvex.hatenablog.com

 

暴落相場がより多く発生するモデルを用いた計算 

まずは前回のおさらいです。ウェルスナビの投資理論は、月間のリターンが正規分布に従うという前提に基づいて構築されています。ところが、正規分布では大きな上昇、下落が起こる確率を、実際の相場よりも過少に評価してしまうという問題がありました。

そこで、正規分布よりも上昇、下落が発生しやすい「ロジスティック分布」を用いてウェルスナビの将来予測シミュレーションと同様な計算を行った結果、以下の表に示すように、30年後の資産額はほとんど変わりませんでした。つまり、このような分布の違いは最終結果にほとんど影響しないことがわかりました。

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上記の計算では、株価の変動を乱数を用いて疑似的に作り出し、多数回の試行で近似値を求める手法(モンテカルロ法)を用いました。100万円の元手で積立を行うことなく30年間運用するという行為を1万回試行して、得られた対数収益率の1万回分の平均値を「50%の確率で達成できる資産額」とみなして計算しています。

正規分布」がウェルスナビと同様に、株価の変動が正規分布に従うことを仮定して計算した結果です。

また一番右側の「ロジスティック分布」は、株価の変動がロジスティック分布に従うことを仮定して計算した結果です。正規分布に比べて若干小さくなっていますが、これは乱数の選び方に起因するもので、有意な差ではありません。

30年の運用結果の分布

さきほどの計算結果は「50%の確率で達成可能できる資産額」を、対数収益率の平均値として求めました。ここではその分布具合をみてみましょう。

対数収益率は、最終的な資産額をS、初期資産額をS0とすると、log(S÷S0)により求められます。100万円が433万円になるならば、対数収益率は約1.5となります。

1万回試行した対数収益率を、0.1刻みの頻度として表したのが下のグラフです。「Normal」が正規分布を用いて計算した頻度、「Logistic」がロジスティック分布を用いて計算した頻度です。紫色の線はこれらを最も滑らかにつなぐ正規分布の曲線です。

2つのグラフが示されていますが、一方がリニアスケール、他方がログスケールで、グラフ自体は同じものです。

まず、1.5付近の頻度が最も高いことがわかります。このことは、対数収益率1.5付近、つまり最終資産額433万円となる頻度が最も大きかったということを意味します。

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そして最も重要な結論は、正規分布を用いても、ロジスティック分布を用いても、最終的な収益率の分布具合はほとんど変わらないということです。前項では「50%の確率」は変わらないことを示しましたが、このグラフから判断すれば、どのような確率であっても同じ結論だと言えます。

この事実は、「サイコロをn回降った時の目の和は、正規分布に近づく」という中心極限定理が表れているものと思われます。月間のリターンがロジスティック分布に従う場合でも、これらの和である期間対数収益率は正規分布に近づくというわけです。もちろん、短期ではダメで、長期の運用であることが前提ですが。

ここまで含めて考えれば、ウェルスナビの運用理論も、ある程度の暴落相場は想定できている(理論に含まれている)と言い切ってしまってもよいかもしれません。同じく、長期運用であれば、ですが。

そうは言っても心配だ!

「ウェルスナビの想定リスクは過去の暴落も含めて推定した値である。だから今回の暴落も想定内で、安心して保有し続けてるべきだ。」

というのが今回の結論です。しかし、まぁ心配になりますよね。

新型コロナウィルスの日本での感染は落ち着いてきた、と見せかけて再加速の勢い。世界の感染増加は本当に驚くばかりです。ここまでくると、経済への犠牲も相当程度覚悟すべきです。

同じようなことは過去のショックでも言われました。そのたびに、「資本主義経済の終焉」などと騒がれたものです。

だから、ではありませんが、私は保有し続けます。来週は積立も実施します。今後どうなるか、またこのブログでご紹介していきたいと思います。