CAPMにより求めるビットコインの期待リターン
資本資産価格モデル(CAPM)を用いて様々な資産クラス、銘柄の期待リターンを求めてきました。CAPMを一言で説明すると、マーケット参加者がみな合理的な判断をしているという仮定のもとで、市場で付けられている価格とその変動リスクの値を用いて、各資産クラスや銘柄の期待リターンを求めるという理論です。
このブログではこれまで、ウェルスナビが採用している各資産クラスや、いくつかの日本株に対して期待リターンを「独自に」求めてきました。
そこで今回は、ビットコインの期待リターンを求めてみたいと思います。
ウェルスナビの最新のホワイトペーパーでは、金(ゴールド)の期待リターンとして3.8%という数値を想定しています。配当も利子も無い資産に対して期待リターンが計算できるならば、ビットコインに対しても同じような計算ができるはずです。それならば、計算だけでもやってみようではないか、ということで試してみることにします。
はじめに
毎度のことですが、本記事も個人的な独自研究にすぎません。
今回使用する「資本資産価格モデル(CAPM)」という理論そのものは権威あるものですが、この理論があらゆる場面に適用できると証明されたことはありません。
また、今回理論に適用するインプットデータも私が個人的に収集したものであって、取り扱いが適切であることを保証できるものではありません。
また、「WealthNavi研究」を冠するこのブログですが、本記事はウェルスナビにおける資産運用と直接関係するものではありませんので、あらかじめご了承ください。
それでは、これからビットコインの期待リターンを計算していきます。
ここで用いる理論(CAPM、資本資産価格モデル)について簡単におさらいしておきます。期待リターンµは以下の式で求められます。Fはリスクフリー資産の期待リターン、δはリスク回避度と呼ばれる定数です。Σは市場ポートフォリオの共分散行列、wは市場ポートフォリオの配分比率(ベクトル)です。
今回ビットコイン関連で調べておく必要があるデータは以下の2つです。
共分散については、過去2年の価格データから推定することにします。
計算についての詳しい説明は、以下の記事も参照してください。
ビットコインの価格推移と時価総額
以下のグラフは、ビットコインの月間の価格推移です。データはinvesting.comから引用しました。*1
参考のため、米国株ETFであるVTIの価格も並べています。
これらの価格データから、月次リターンを計算します。
以下のグラフがその結果です。ビットコインのボラティリティを調べたのは初めてでしたが、ものすごい値ですね。1か月で+60%とか-40%になることもあるとは…
とても長期投資しようとは思えないレベルです。
さて、これらのデータから共分散を求めます。例えばVTIとの共分散は、それぞれの標準偏差の積に、さらに相関係数を乗じて求めます。ここで求まる標準偏差は月次リターンのものですので、年率に換算しておく必要があります。
このようにして求めたビットコインとVTIとの共分散は、-0.009となりました。
その他の資産との共分散も求め、結果を以下の表に示します。なお、今回の計算で使わないところは空白のままとしました。
ちなみに同一資産同士の共分散は「分散」と呼び、標準偏差の2乗で求められます(相関係数が1である)。ビットコインは標準偏差がなんと76%!なので、分散は0.58です。
次は時価総額を調べます。ビットコインの時価総額は、coinmarketcap.comのサイトから調べました。*2
このサイトによると、現時点での時価総額は約1000億ドルでした。
他の資産クラスの時価総額は、前回求めた値をそのまま使用します。ビットコインも含む全資産クラスの時価総額は100兆ドル超ですので、ビットコインの配分比率wは0.001程度となります。結果を以下の表に示します。
ビットコインの期待リターン
それでは、ビットコインの期待リターンを計算しましょう。
計算式は以下の通りでした。
今回も前回までの記事と同様、以下のパラメータを使用します。
- F:リスクフリー資産の期待リターン 2.35%
- δ:リスク回避度 4.75
- Σ:共分散行列 (前項の通り)
- w:市場ポートフォリオ配分比率 (前項の通り)
上記の式に基づいて計算した結果、ビットコインの期待リターンは、約0.6%となりました。
予想外に小さな値となりました。これだったら無リスク資産で運用したほうがだいぶマシ、というレベルです。76%という高いリスクをとってまで運用する資産性はないと、市場参加者は評価しているということでしょうか。
そもそも、ビットコインの資産性はどこにあるのでしょうか。株や債券のように持っているだけで(配当や利子などの形で)リターンが得られるというわけではありません。敢えていえば、金(ゴールド)のような性格を持っているのだと思います。しかし金に対してあまりにも歴史が浅すぎるため、資産性が定まっているとはとても言えない状態です。ビットコインの技術的な将来性は一定程度期待できると思いますが、市場参加者は決して金と同じような評価を与えているわけではない、ということなのだと思います。
もうちょっとマシな結果になることを期待していましたが、さすがに金(ゴールド)の足元にも及ばないですね。技術的な将来性は別として、CAPMの観点から見れば、ビットコインは長期投資には向いていない、という結論でした。(ちょっと残念)