ウェルスナビの日欧株(VEA)と新興国株(VWO)は役に立っているのか?

ウェルスナビで資産運用している方は、リスク許容度「5」で運用されている方が比較的多いのではないかと思います。しかし、リスク許容度「5」を選択すると日欧株(VEA)を32.9%、新興国株(VWO)を14.6%も保有することになります。合計すると47.5%です。これら2資産の最近のパフォーマンスが大変よろしくなく、「ウェルスナビぜんぜん儲からないなぁ」という印象(というか事実に近い…)を与えてしまっています。

何故こんなにパフォーマンスが悪いのか。そして将来もこのままなのか?

…ということはわからないのですが、ウェルスナビが想定している期待リターンがいくらで、過去の実績平均リターンがいくらなのかを比較することはできますので、記事にしてみました。

日欧株と新興国株の過去の実績平均リターン

まずは日欧株(VEA)と新興国株(VWO)の価格履歴と分配金の実績を調べ、そこからリターンを計算します。先日、「ウェルスナビのリスクを検証」という記事で過去7年分(2013年3月末から2020年3月末)のリターンのデータを調べたところですので、同様のやり方で計算していきましょう。【文末(参考1)】

以下のグラフが、過去7年分の価格履歴と分配実績です。価格は折れ線グラフで、左目盛りを見てください。分配金は3か月ごとに支払われ、その額は右目盛りを見てください。いずれも、投資口1口あたりのドル建てです。

価格履歴を見ると、日欧株(VEA)も新興国株(VWO)も驚くほど成長していません。以前の記事では米国株(VTI)のグラフを載せましたが、それと比べると非常に対照的です。価格に対する分配金の比率は、日欧株、新興国株のほうが米国株よりも若干高いかな、という感じです。まるで債権に投資しているみたいですね。

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さて、以上のデータを用いてリターンを計算します。 前回記事同様、月次リターンを考えることで、下記の通り算出するものとします。

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ここで、Rはリターン、Pは資産クラスの価格、Dを分配金の額とします。

添え字「i」は、「月次」を表すものとします。上の式は、ある月「i」におけるリターンを表したもので、月「i」の月末における価格がP_i、ひとつ前の月「i-1」の月末における価格がP_i-1です。これらの差が値上がり益となります。

また、月「i」の期間中に受ける分配金の額をD_iとしています。

以下の図がリターンを計算した結果です。

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7年間の検証期間中、月次のリターンは84個とることができますので、これら84個の平均値によって「平均リターン」を求めます。

計算の結果、実績の平均リターンは下記の通りとなりました。

日欧株(VEA):2.7%

新興国株(VWO) :0.6%

ウェルスナビ想定期待リターンとの乖離

前項では、過去7年のVEAとVWOの実績としての平均リターンを算出しました。

ところで、ウェルスナビの期待リターンは過去の実績を元に決められているわけではありません。ホワイトペーパーによると、Black-Littermanモデル、あるいは資本資産価格モデル(CAPM)により決定しているとのことです。 【文末(参考2)】

このモデルの基本的な考え方は、仮に世界中のすべての投資家が合理的な行動をとっていると仮定すれば、現在市場で取引されている資産の時価は、最も妥当なリスク・リターンの認識を反映したものになっているはずである、というものです。この仮定が正しいならば、最も妥当なリターンを現在の時価総額とリスクから逆算して求めることができ、このように算出した結果を「期待リターン」としています。

資産クラス毎に、期待リターンとリスクをプロットしたのが下の図です。青い点が、ウェルスナビが想定する期待リターンで描いたもので、橙色の点が、前項で求めた実績平均リターンで描いたものです。

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このように見ると、ウェルスナビの期待リターンを上回った資産クラスはわずか2つ(米国株と米国債券)のみで、残りの資産クラスは、過去7年の平均でみるといずれも低調な実績となりました。

金(ゴールド)もダメでしたが、やはり日欧株と新興国株の落差が激しいことが見て取れます。

実績平均リターンに基づく投資機会集合

ウェルスナビは、Black-Littermanモデルで求めた期待リターンに基づいて最適ポートフォリオを計算し、運用を行ってくれるのですが、もしも期待リターンが本当は正しくなかったとすれば、 結果としてポートフォリオも最適ではなかったということになってしまいます。

そこで、期待リターンで計算したポートフォリオと同様に、実績平均リターンで計算したポートフォリオも描いてみることにします。なお、構築可能なポートフォリオの集合を「投資機会集合」とも言いますので、ここではこの用語を用います。【文末(参考3)】

まずは、ウェルスナビが想定する期待リターンを用いた投資機会集合です。

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図中、濃い青色の点は各資産クラス単体でのリスクおよび期待リターンに対応する点です。薄い青色は小さな点で描いていますが、各クラスを5%刻みで変化させた場合の投資機会(ポートフォリオ)を表します。その多くが重なっているためほとんど面に見えますが、点は23万点以上あります。そして赤の点は、ウェルスナビが採用しているポートフォリオで、リスク許容度に応じて5つが用意されています。

赤色の点が投資機会集合の中でも上側に張り付いて見えますが、これは「リスクが同じなら期待リターンは最も高いものがいい」という最適ポートフォリオの構築方針がきちんと実現できているということです。このような投資機会集合の上側の辺を「効率的フロンティア」と呼びます。 

さて次は、過去7年の実績平均リターンを用いて投資機会集合を描きます。

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過去7年に限っては、日欧株および新興国株がふるいませんでした。これらが47.5%含まれているリスク許容度「5」のポートフォリオも、必然的にあまり良い位置にとどまることができていません。リターンは5%程度で、これから手数料を差し引いたり、ランダムウォークに起因する低減効果も加味すると、実質3%くらいの複利効果しか見込めないレベルです。

成績が良かった資産クラスは米国株と米国債券なので、これらの比率が相対的に高いリスク許容度「3」のほうが、むしろ良いパフォーマンスだった可能性すらありそうですね。

 

今回の記事では、主に日欧株と新興国株のパフォーマンスを、過去7年分のデータから振り返ってみました。ウェルスナビで運用されている多くの方がうすうす気が付いている通り、あまり良い成績ではないことが確認されました。

この結果を踏まえてどういう行動をとるべきか。これは難しい問題です。過去7年と同じ状況がこれから継続するかどうかがわからないためです。

これからの世界経済も過去7年の延長線上だ(≒米国ひとり勝ちが続く)と考えるならば、何かしらの行動をとるべきかもしれません。コロナショックを経験してリスク許容度を下げたいと考えた方は、許容度「3」くらいまで下げてみるのも良いと思いますし、 思い切って米国株と米国債券に特化して自力でのETF運用に移行してもよいかもしれません。

一方で、アフターコロナの世界経済はますます混迷を深めると考えるならば、引き続き世界に広く分散投資すべきです。ウェルスナビのリスク許容度「5」は、株式だけでみれば良く分散されており、米国、欧州、日本、中国、どこが伸びても対応できるポートフォリオだと思います。

私は、リスク許容度「5」での運用を続けるつもりです。

 

(参考1)リターンの計算方法はこちらも参照

curvex.hatenablog.com

(参考2)期待リターンの算出についてはこちらも参照

curvex.hatenablog.com

(参考3)投資機会集合についてはこちらも参照

curvex.hatenablog.com