ウェルスナビのリスクを検証(その1)

ウェルスナビのホワイトペーパーには、米国株、日欧株など各資産クラスのリスクが以下の通り記載されています。今年2月下旬以降、あらゆる資産クラスの価格が大幅に変動し、投資のリスクというものを実感したという方も多いのではないかと思います。

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さて「投資のリスク」というとやや定性的な表現ですが、上の表で示されている数値は何を意味するのでしょうか?

また、これらの意味がわかったとして、この数値をそのまま信じてよいのかどうかと不安になることはないでしょうか?

本記事では、ウェルスナビがホワイトペーパーで述べているリスクについて、過去の実際のリターンを用いて検証します。

はじめに

過去、このブログでは、米国株、日欧株、新興国株について、ウェルスナビで想定されているリスクが妥当なのかどうか、過去データに基づいて検証したことがあります。当時は、私が実際にウェルスナビで運用している期間(2年4か月)のみで計算しており、検証期間の短さに課題がありました。また、リターンの計算がやや複雑でわかりにくかったと思います。

そこで今回は、検証期間を7年間に広げ、リターンの計算もより明確にしたうえで、再度検証を試みます。今回の再計算にあたり、資産価格および分配金実績は、NASDAQのサイト*1から引用しました。ただし、米国債ETF(AGG)の分配金情報のみ、Dividend Channel*2のデータを用いています。

今回の検証は7年間(2013年3月末から2020年3月末)の84か月を対象としていますので、チャイナショックや、最新のコロナショックのデータも含まれた、より現実的なものになったと考えています。

なお、過去の記事は文末にリンクを貼っておきますので、こちらも参照してみてください。

リスクの考え方

まず、長期投資におけるリスクとは何かを明確にしておきましょう。

ウェルスナビが採用している投資収益モデルは、リターンが正規分布に従う確率変数であることを仮定しています。すなわち、ある期間における(例えば月次の)リターンは確率的にバラツキがあるが、その分布には一定の規則性があり、極端に大きなリターンほど(平均値から遠ざかるほど)発生頻度が小さくなるというものです。

分布が定まれば、リターンの期待値と標準偏差が計算できます。リターンの期待値のことを「期待リターン」、標準偏差のことを「リスク」と呼びます。

このようなモデルでは、ひとたび月次の期待リターンとリスクが定量化されれば、これよりも長期のどのような期間に対しても、期待リターンとリスクを評価することができるようになります。数学的には幾何的ブラウン運動という名前で呼ばれています。

そこで、以降ではリスクを測る期間として「1か月」を採用し、月次のリターンを扱っていくことにします。7年の検証期間には84個の月次リターンが含まれ、期待値や標準偏差を計算するのに十分な統計量が得られるからです。

curvex.hatenablog.com

 

リターンを1か月で計測するものとしました。この間の利益には、資産の値上がり益と分配金による利益の2種類があります。これの利益を投入額で割った値をリターン(利益率)と考えます。

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ここで、Pは資産クラスの価格、Dを分配金の額とします。

添え字「i」は、「月次」を表すものとします。上の式は、ある月「i」におけるリターンを表したもので、月「i」の月末における価格がP_i、ひとつ前の月「i-1」の月末における価格がP_i-1です。これらの差が値上がり益となります。

また、月「i」の期間中に受ける分配金の額をDiとしています。

7年間の検証期間中、月次のリターンは84個とることができます。これら84個の過去データについて標準偏差を計算することにより、リスクを評価することにします。

米国株ETF(VTI)のリターン

今回はウェルスナビが採用している6個の資産クラスすべてに対してリスクを評価します(リスク許容度2以下で投資対象となる物価連動債は除きます)。

本項では代表して米国株の月次リターンを求めます。

なお、米国株の標準偏差を求めようとするならば、米国株全体をよく表している指数を仮定する必要があります。S&P500などがよく使われる指数ですが、本記事では、ウェルスナビが採用している米国株ETFである「VTI」の価格と分配実績をそのまま使用することにします。

以下のグラフが、過去7年分の価格履歴と分配実績です。価格は折れ線グラフで、左目盛りを見てください。分配金は3か月ごとに支払われ、その額は右目盛りを見てください。いずれも、投資口1口あたりのドル建てです。

一番右側が2020年3月末のデータですが、下落幅がいかに大きかったかがわかります。

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このデータを用い、前項に示した計算式(以下再掲)に基づいてリターンを計算します。

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 その結果を以下のグラフに示します。

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上のグラフでは、リターンが84個分計算されています。この84個に対して標準偏差を求めれば、月次リターンのリスクが求まります。

なお、リスクは年率で表示するのが一般的ですので、これを年率に換算する必要があります。正規分布では、月次標準偏差をルート12倍(×√12)することで、年率の標準偏差を求めることができます。

ウェルスナビのリスク(検証結果)

前項のような計算をすべての資産クラスに対して実施します。なお、採用した価格と分配金データは、いずれもウェルスナビが採用しているETFのものを用いました。 

結果は以下の通りです。

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 「リスク(ホワイトペーパー)」列に示した値は、ウェルスナビのホワイトペーパーに示されている値です。

その右、「リスク(検証結果)」列に示した値が、前項までに示した方法で検証した結果です。若干の差異はありますが、概ね一致していることがわかります。

最も乖離が大きかったのは「不動産」でしたが、これは実は2020年3月に記録した-19.7%もの大幅下落が効いており、大きなリスクとして計算されました。この1点を除けば、ホワイトペーパーの値とほぼ一致します。先月の下落がいかに大きなものであったか、再認識できます。

 

以上まとめると、コロナショックによる大きな下落を含めても、ウェルスナビの想定しているリスクは、現実に起こっているリターンの変動をよく表しているということが確認できました。ウェルスナビの投資モデルは信頼できるものであり、「長期では報われる可能性が高い」という理論を信じて、投資(積立)を続けていきましょう。

 

(参考)過去の記事はこちらです。

curvex.hatenablog.com

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